目の前の課題と向き合い続けるQuest”ER” 土谷樹生さん

25才まではフリーターとして生活していた土谷さん。
その後26才で弘前大学へ入学、震災をきっかけに大学院へ進学。卒業後は防災に関する研究所へ所属するも、現在はご親族が経営される北海道の酪農機器メーカーに入社した経歴の持ち主。
ガンダムと仮面ライダーをこよなく愛しながら、防災そしてバイオガスプラントと目の前にある課題と向き合ってきた土谷さんに話を伺いました。

未来の酪農家を支える
バイオガスプラントの会社へ転職

ー ご親族が営まれている土谷特殊農機具製作所で働かれていらっしゃるとのことですが、具体的にはどのような会社なのでしょうか?

父の病気が発覚し、2020年4月に北海道へ戻って土谷特殊農機具製作所に入社しました。
会社は昭和8年に創業、搾乳機器や牛郡管理システムといった酪農機器の製造販売を主に行ってます。約20年ほど前からバイオガスプラントも手掛けていまして、北海道のみならず全国へプラントを販売・メンテンナンスサービスを提供しています。

バイオガスプラント

土谷のバイオガスプラントは、酪農地域の課題である「家畜糞尿処理」の解決を目指して作り始めたものです。
家畜糞尿の処理は、昔から野積みしたり素掘りした穴の中に溜めて液肥や堆肥にしていました。しかし、地下水や河川の水質汚染を招く恐れがあることから法律が改正され、家畜糞尿の新たな処理方法が求められるようになりました。しかし新たな処理方法では液肥等にするために大量の水や空気を送り続けなければならないなど、手間やコストがかかっていました。こうした酪農家の方々の現状を何とかしようと、会社一丸となって辿り着いた答えの1つが、バイオガスプラントでした。
土谷のバイオガスプラントの特徴は嫌気性発酵を用いている点です。嫌気性発酵を用いた消化液は雑草種子や大腸菌等の死滅率が高く、また植物の生育に必要な栄養を多く含んでいるので、良質な肥料として利用できます。さらに1番のポイントは、発酵過程で出るメタンガスは燃料として利用することができるため、エネルギー自給も可能となる点です。
土谷のバイオガスプラントが4つ稼働している町がありますが、各プラントに1,000頭を超える乳牛の糞尿を投入しており、1,200kWhの電力を生み出しています。酪農家さんから糞尿を集め発電させ、売電収入も得ながら、農家さんへ肥料を提供するという循環型農業・持続可能な酪農の仕組みがリアルで回りつつあります。
他の再エネと比べて安定供給が可能と言われているバイオガスプラントを利用して、酪農大国北海道ならではの新しいサステナブルな形がつくっていけるのではないかと思っています。

震災をきっかけに注目するようになった
防災の”ソフト面”

ー 土谷さんが環境問題に興味を持ったきっかけは何でしょうか?

25才までフリーターをしていまして、26才から弘前大学に入学しました。
4回生にあがるタイミングで東日本大震災が起き、当時土砂災害の研究室に所属していたことから何度も宮城・岩手・福島を訪れ、土砂災害の実情を調査しました。地震大国の日本では防災面がしっかりしていると思ってましたが、これだけの被害が出るとは自分にとっても衝撃でした。
調査が進むにつれ、「住民における防災意識の有無」が災害時の行動を左右する一つの要素であるという事が見えてきて、災害への意識などソフト面を変化させていかないと災害を防ぎきれないのではと強く考えるようになり、防災意識や防災教育などを研究する大学院に進学しました。

大学院では、台湾を調査地に住民の防災意識の変化に関する研究をしました。
台湾は国土の約7割が山間地、毎年台風も来て、地震も起こるといった日本とかなり似た環境を有している国です。1999年に震度7の地震が発生したり、2009年にはモラコットという巨大な台風が上陸し、土砂災害を経験しています。そこで10年間に2回土砂災害を経験した隣接するAとB、2つの村へ行き、防災意識の変化について調査をしました。
Aの村で特徴的だったのは、地域全体でそれぞれの役割分担を決めていることでした。防災訓練では消防局等と連携してケース分けした模擬訓練が行われるだけでなく、住民自身が役割を理解した上で放送内容に応じて避難を促すなど、防災意識が徹底していました。
他方でBの村では、「村長が正しい判断してくれる」というイメージが根強くあり、最終的には村長にお任せします、といった形で災害への意思決定が行われていました。
村それぞれの成り立ちもありますが、住民全員が役割分担を意識している地域とトップダウンによる指示を優先する地域とでは、地域の防災意識に差が出ることがわかりました。

日本でも過去に例がないレベルでの災害が増えてきており、もはやこれまでの経験だけでは対応できない状況だと思います。現状の気候変化や山の状態、そして最新の情報を取り入れて、新しい防災対策を地域全体でアップデートしていく必要があると思います。

今目の前にある課題の解決が
きっと環境問題の解決に繋がる

ー 防災に向き合った経験を経て、北海道へ戻った土谷さん。
  これからはどのように環境問題と向き合っていくご予定でしょうか?

環境問題に対しては、「環境対策しましょう」としてアクションするよりも、困っているものを対策していくことが環境問題の解決に繋がっていくと思っています。

災害が増えてくるなか、避難場所を作ってもきちんと機能させていく為には地域の繋がりが必要ですし、何より地域住民の意識が必要不可欠です。ですが、「意識を持ってください」と言うだけでは、人の行動変容は起きません。
岩手県の釜石市では2014年から「韋駄天競走」というイベントが開催されています。
このイベントは街中をスタート地点として津波の避難所である高台がゴール、というルートそのものが津波からの避難経路というもので、市民が楽しみながら津波からの避難経路を学べるイベントで、非常に感銘を受けました。防災も環境問題も意識を持つことは大切ですが、その意識を定着させる為には、皆が楽しめるものや参加したくなるイベントを考え出すことも必要だと思います。
環境問題という大きな課題には最初の一歩を個人→世帯→そして地域へと踏み込んでいくStep by stepの視点が必要だと感じます。偶然ですが、私が入学した大学院が掲げていた標語”Think globally, Act locally.”は、土谷特殊農機具製作所の標語でもあります。弊社がすでに57基のバイオガスプラントを製造・販売できたのも、地域の課題を解決しようと動いてきた結果です。
私の好きなアニメのセリフに「革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を持ってやるからいつも過激なことしかやらない!」というのがあります。大きな動きを一気に進めるのではなく、一歩ずつ取り組めることから活動していくことが大事だと思います。そして我々ができる最初の一歩は個人の生活、地域に根ざした活動かもしれません。

●取材を終えて
様々なキャリアを歩むなか、多くの時間を防災と向き合ってきた土谷さん。
最近は地震や大雨による土砂災害なども頻繫に発生していますが、この10年で水害が起きていない市区町村は日本全国のうち3%しかなく、残り97%は何かしら水害が発生しているというデータも明らかになっています。
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201507/1.html

あなたの日常生活のなかで「これはちょっと困るな」といった困りごとはありませんか?
同じような困りごとを抱えているのは、きっとあなただけではないはずです。
身近な個人の課題を解決しようと少しずつStep by Stepでアクションを起こしていくことが、きっと個人や家族、地域の課題だけでなく、環境問題という大きな課題の解決に繋がっていくのかもしれません。