バーテンダー×環境問題|Act for ”森林問題をもっとカジュアルに”

新宿のBar Benfiddichでバーテンダーとして腕を振るう鹿山さん。
ウィリアムリード社が発表する世界のBarランキングでは、毎年Asia50やWorld50にランクインするほどの実力の持ち主で、2021年は32位にランクイン。今年から森林総合研究所やエシカルスピリッツ社と連携して、サクラやスギなど、世界初の木からお酒を造ることを始めています。そんな鹿山さんに、環境問題と出逢ったきっかけ、今後どう向き合っていくのかなど、お話を伺いました。

唯一無二のお酒を目指して行きついた農業×バーテンダー

ー Bar Benfiddichではどのようなお酒を提供されているのでしょうか?

Bar Benfiddichでは唯一無二のカクテルとして、実家の埼玉県ときがわ町の畑でつくったハーブ酒を提供しています。
今でこそローズマリーやタイムなどはスーパーで売られていますが、14年前はほとんど市場で取り扱われていませんでした。そこで、実家が埼玉県ときがわ町にあったこともあり、地の利を活かして10年前から実家の畑でハーブを育てることを始めました。

実家のハーブ畑
収穫する鹿山さん

一般的にはミントの葉の部分が売られていますが、実は葉っぱ・蕾・花・根とパーツそれぞれで全く香りが違います。また春夏秋と季節によっても風味が異なります。香り高いハーブは、蕾の部分に香りが凝縮するようになっていまして、その香りが凝縮する際には蕾のサイズが少し小さくなるのです。その一瞬を見逃さないように、自分の目で判断して、収穫してお酒に使えるというのが、まさにバーテンダーの僕としての武器だと思っています。

ー 2016年からAsia50やWorld50に選ばれたようになったようですね。

僕の特技は、畑のハーブ栽培もそうですが、発酵蒸留です。
海外に注目されるようになった最初のきっかけはニューヨークタイムスでした。
2013年にインバウンドで海外から多くのお客さんが来た際、 Bar Benfiddichに来店した人が「アブサン(薬草リキュールを使ったお酒)を自分で作っているクレイジーなジャパニーズバーテンダーがいるぞ!」という風に記者の耳に入れたらしく、取材が来ました。その次は2015年でした。当時は虫を使ったカクテルを作っていて、世界一予約のとれない店で有名なノーマというレストランのシェフが連日飲みにきていました。そこで、赤色の色素を作れるカイガラムシを使ってカクテルを提供したところ、それに衝撃を受けたらしく、うちの名前をメディアで紹介してくれたことから世界中のレストランのシェフが一気にお店に来るようになりました。そこから「世界中のレストランシェフが行っているぞ!」と海外の芸能系からの取材がひっきりなしに来るようになり、これまでブラッ・ドピットやケイティ・ペリーなどハリウッドセレブ系の人も来店するようになりました。
こうして知ってもらう機会が増えたことで、バー界の主戦場に立てた気がしています。

Bar Benfiddichで提供している薬草系カクテル

ー そんな鹿山さんですが、ときがわ町の木を使ったお酒をつくろう!と思ったのはどこか環境を意識していたからなのでしょうか?

僕がボタニカルやアブサン系(薬草系リキュール)のお酒づくりをしているのは、たまたまでした。市場に出回っていないハーブからカクテルをつくる、というところがスタートだったので、環境問題というところまで壮大なところまでは行きついていなかったですね。海外メディアに取り上げられるようになってから海外に呼ばれることも増え、日本大使館の仕事で中国の山奥の村にいきました。そこでバイチュウという竹を醸(かも)しているお酒に出会い、「竹が醸せる!なんだそれは!」と色々とネットで検索したとき、森林総合研究所がバイオエタノールでお酒をつくるという研究をしていることを知りました。丁度、木からつくったお酒の観応試験に係るテイスターを募集していたことがわかり、すでに募集は終了していたのですが、電話して「やらせてください!」と言い、無理やり入れてもらいました。(笑) そこから森林総合研究所産との関係がスタートしています。

今年から森林総合研究所に通っているのですが、スギ・シラカバ・サクラ・ヒノキなど木種によっても香りが異なることを知り、また国産林の需要不足や林業の担い手不足、また製材に係る葉材などが廃棄されているといった森林問題を知りました。
木の新しい使用用途としてお酒を確立していくことで、木を身近に知ってもらい、身体に入れるものとして美味しい・香りも利けるといった体験を通じることで森林問題に興味を持てるようになっていければと思っています。

ー 木のお酒を通じて環境問題とどう向き合っていきますか?

この活動を通じて日本の森林問題を知ったわけですが、お酒を通じて森林問題をカジュアルにしたいと思っています。お店と実家を行き来していたとき、ときがわ町って実は木の村だったんだ、とふと気付いた瞬間がありました。都幾川で林業を営んでいる方から、製材したときの葉材に困っていると聞くのですが、葉材として出るのは大体木の外側部分が多く、外側は若くて香りがよいためお酒作りにも打ってつけです。
木のお酒を通じて、ときがわ町という生まれた場所も発信していきたいと考えています。

自然豊かな埼玉県ときがわ町

将来的には例えば伊勢神宮の廃材でつくろうとか、仏具メーカーから出る削り節でつくろうとか、様々なプレイヤーと木のお酒を通じたWinwinな関係を創っていきたいなと思っています。伊勢神宮の補修で使われる木は樹齢500年相当のものが多いので、400年から500年前からある木のお酒、となるとまた違った価値が出てくると思っています。

ー バーテンダーとしては今後どうしていきたいですか?

そうですね、お酒を”嗜好品として楽しんで呑む”ということは伝え続けていきたいなと思っています。友達と楽しく飲むのもいいですが、バーの魅力はいろんなストーリーを知れる、伝えられるというところに魅力があると思っています。なので、木のお酒も然り、お酒自身の楽しさを伝えていきたいですね。
木のお酒は、2022年夏には商品として提供したいと思っていますので、みなさんぜひBar Benfiddichに遊びに来てください。

重厚かつクラシカルな雰囲気漂う Bar Benfiddich

・Bar Benfiddich:https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13159249/
・note : https://note.com/benfiddich
・Ameblo:http://s.amebame.com/#profile?ameba_id=kayama0927&frm_id=c.am-profile_l.dr-home_r.am-ameblo

●取材を終えて
取材した私自身もお酒が好きですが、お酒一つにとっても日本酒はコメ、焼酎は麦、ワインはブドウ・・・と自然資源に支えられている文化なのだと改めて実感しました。
当たり前にある木や畑に着目し、お酒と掛け合わせて付加価値をつくる。そうした背景もスト―リーとして提供する Bar Benfiddich 。
環境問題に元から興味はなくとも、ご自身のわくわくすること、そして仕事をかけあわせて森林問題にアプローチする鹿山さんのフットワークの軽さや好奇心に満ちた瞳に、森林問題の解決に向けた新しい可能性を感じずにはいられませんでした。
みなさんも、ぜひ一度Bar BenFiddichを訪れて、カクテルがつくられるまでの裏側のスト―リーから自然の価値や香りに酔いしれてみるのはいかがでしょうか?