未来の林業をつくるCreat”OR” 井部健太郎さん

明治6年創業の久万造林株式会社5代目代表を務める井部さん。
国内の木材が建築用途に盛んに使われていた一時代を経て、今その需要は大幅に減少。
育てても余ってしまう杉・ヒノキの現状と200年先の山の未来を考え、所有している山の針葉樹林を50%減らし、広葉樹林に植え変える”黄金の森プロジェクト”を今年本格始動。
着想から5年。200年先を想う気持ちから始めた本プロジェクトにかける想いやコンセプト、そして林業を通じて25年以上山と会話してきた井部さんが思う山や環境問題への想いを伺いました。

時代と共に変わっていく林業の求められ方

ー ”黄金の森プロジェクト”とはどのようなプロジェクトでしょうか?

「木と人のシアワセを考える」というコンセプトで、100年も200年も元気な木が生え、育っていく環境をつくっていこう、と始めたプロジェクトです。

祖父の時代(昭和40年代~)は、建築ラッシュの時代で木材の値段も高く、製材品がバンバン売れていた木材バブルのときでした。植えて育てれば売れる時代なので、お金だと思って植え、人々はその先の未来や環境なんか考えていませんでした。よくこんなところに植えたなという木もあります。
数十年間はそれでよかったのですが、木材バブルはそれほど長続きしませんでした。杉・ヒノキを育てても今では余る状況です。木を植えて、育てて、利用させてもらうことには変わりないですが、自然環境や社会の状況がスピーディーに変化していくなかで、50年~100年後の山の姿を想像して、木の使い方を変えていかなければならないと思うようになりました。そうして長いスパンで考えると、杉・ヒノキはこれほど要らないのでは、と思い始めたことがきっかけとなり、黄金の森プロジェクトを考えるようになりました。

黄金の森プロジェクトでは、山の中に占める杉・ヒノキの植生率を下げ、自然植生に近い木に植え替えていく作業をします。この辺の樹種を調べている植物学者がいるのですが、久万高原町周辺の山のうち、自然植生が残っているところは数%もないことがわかっています。ほとんどは人工林です。ですので、久万造林が保有している山のうち、杉ヒノキの植生率を50%下げ、広葉樹などの植生に変えていきます。そうして自然植生に変えていけば、維持管理にも手がかからなくなっていきますし、山の利用の仕方自体も変えていく予定です。

まず手始めに、アクセスが悪く面積が小さい部分から杉・ヒノキを伐採し、クヌギなどに植え替えていく作業をし始めています。
また、会社から車で5分くらいの山に1.5ヘクタール全伐したところがあるのですが、とても見晴らしがよいため何かに使えないかと思い、松山市内の造園屋とタッグを組んで、人と山の新しい触れあう場をつくろうと、構想を練り始めました。

200年後を考えた新しい林業の在り方をつくる

ー 井部さんが考える新しい林業とはどのような形でしょうか?

よく「100年前の森を戻しましょう」という話をされるのですが、100年前の環境と現在の環境は全く違うのに加え、一度手を入れてしまった森は100年前と同じ森にはなりません。植生を戻していったとしても新しい森になるのです。久万造林では、山岳博物館の学芸員とチームを組み、樹種も細かく選定しながら、100年200年以上続く森づくりを進めています。
他方で、杉ヒノキを減らしていくので、木を育て売ってきたこれまでの久万造林のビジネスだけでは成り立ちません。そこで、自然環境が主役となる”フィールド”を作り、そこに人がちょこっとだけ入れるスペースを作って、活用していくという新しい山と木の使い方をつくろうと考えています。
これから色んな業種の人に参加していただき、この活用の仕方を考える共創ラボを立ち上げる予定です。最終的には新しい使い方に対して利用料をいただき、そうしたビジネスモデルを新しい林業モデルとしたい、と考えています。


先日は松山市内にある自転車屋と、山を間伐したところでマウンテンバイクの走行会をしようという連携の話が持ち上がりました。マウンテンバイクを走らせて、植樹もするというユニークなイベントを構想しています。マウンテンバイクだけでなく、森林セラピーといった使い方もあるでしょう。
ただ、こうした連携は黄金の森プロジェクトを理解してくれる人としかしない予定です。自転車屋がお客さんを連れてきてくれるだけでなく、なぜここを使っているのか、その背景を説明してもらい、理解を深めてくれた人に使ってもらうような形を考えています。
また本プロジェクトでは、1つだけルールをつくっています。
「自然が主体。人は山にちょっとお邪魔するというプロジェクトのみやる。」ということです。この感覚はとても大切で、ルール1つ守ってくれさえすれば誰でも使ってよいというものにしています。シンプルなルールにしておけば、エコや環境というのを押し付けることなくゴミをポイ捨てしたりしないような状態になるかなと思っています。
また僕らの世代では、余っていく杉・ヒノキの行き場所を考えないといけないと思っていまして、木を柔らかいシート状にし、カードケースやマネークリップなど新たな木材プロダクトを作り始めました。

こうした様々な取組みを通じて、山と木を考えてもらうきっかけを作れればと思っています。

木と山と人と
関係性を改めてつくり直す


ー 200年先まで見据えている井部さんですが、世界中が環境負荷軽減の目標時期として見据える2030年・2050年にかける想いはありますでしょうか?

結局は自然の影響の方が人間より強いので、人が自然に合わせていかないといけなくなるときが必然的にやってくると思っています。
最近大雨で土石流などの土砂災害が頻発していますが、これには山の乱伐や手入れ不足の影響もあると考えています。人間が行き過ぎた行動をとると自然が反応してくるので、人が行動を変えていかざるを得ない。そこまで人間はバカではないと思っているので、みんなが危惧するほど心配はしていません。
他方で1個気になるのは、じっくり考えることをしない人たちが増えてきているのではと感じています。考えることを放棄しないでさえいれば、なんとかなるだろうなと思っています。

ー 最後にみなさんに伝えたいメッセージをどうぞ。

今座っている椅子や机など、これまで木に触れたことがない人はいないと思います。
ですが、自分が触れた木がどこから来ているか、意識したことない人がほとんどだと思います。
それは伝えていけていない僕らの責任でもあります。
これからは林業側から何の木でどこから来ているのかを発信していくので、すこしでもみなさんの意識が木や山に向かうようになればと思っています。
将来的には、全国で黄金の森プロジェクトみたいなものが広がっていくと思っていて、企業もそういう活動をどんどん支援していくことになると思っています。
きっと私の祖父も父も、その時々の環境でベストを尽くしていると思うので、僕の代では新しい山と人との在り方を作って、次の世代にバトンタッチしていければと思っています。

●取材を終えて
先祖が人工林に植え変えてきた森を、サステナブルな森へと新しくつくりかえる作業に取組み始めた井部さん。林業と山と人の移り変わっていく関係性を見られてきた中で、「山があれば人は生きられる」と力強く語る井部さんは、まるで大木のようにどっしり構え、静かに今と未来を見据えておられるのが印象的でした。
今この記事を書いている机も木製ですが、この木が何の木で出来ていて、どこから来たのか、私も残念ながらわかりません。もしかしたら無理な開発で出来た森の木かもしれませんし、持続可能な森林資源として管理されている森の木かもしれません。
この記事を最後まで読まれたあなたも、きっと身の回りにある木材が気になってくるはずです。そうして気になっていくことこそが、井部さんが願っている木や山に意識が向かう為の大切な一歩なのだと思います。