沖縄の自然を未来に繋げる Storytell”ER”

沖縄北部の豊かな自然に囲まれ、生き物たちと触れ合う幼少期を過ごした山原さん。
大学では農業を学び農産物の生産現場に就職、6年間農業に携わりながらも環境コンサルティング会社に転職し、今なお山原さんらしい環境問題との関わり方を模索し続けています。
そんな沖縄の自然を愛する山原さんに、環境問題を意識するようになったきっかけ、これまで歩んできたキャリア、これからの沖縄の自然に思うことを伺いました。

消えてしまった”遊び場”と大好きな生き物たち
思いは、人の暮らしと自然の共存へ


ーどういった体験がきっかけで環境問題に関心を持ったのでしょうか?

僕は沖縄県北部の山原(やんばる)出身で、田舎育ちなんです。小さい頃から遊ぶところも自然の中でした。
高校からは地元を離れて那覇に住んでいたのですが、大学生になって昔遊んでいたところにも行ってみたところ、川があった場所は護岸工事され、一面コンクリートになっていました。そこにはシオマネキといった貴重な生き物が沢山いたのですが、そうした一緒に遊んでいた生き物たちもいなくなり、哀しくなって呆然と立ちすくみました。

人の生活を災害から守るために川の護岸工事が必要ということは理解しています。
ただ、いつも遊んでいた川がコンクリート固めになっているのを目の当たりにすると、守られるものと失うものの両方があるということに気付かされました。土砂を運ぶために山1個なくなり、そして川もなくなっていく。人間の行動が自然に与える影響を強く感じます。
生活のために必要なことは行うにしても、自然を残せる方法、共存する方法を考えていきたい。環境系の仕事に就きたいと思うようになったのは、こういった体験があったからです。


ー沖縄のなかでも山原の辺りは自然がある方なのでしょうか?

そうですね、見栄えがいい”観光向け”の自然は沢山残っていますが、僕が遊び場にしていたのは川の汽水域(海水と淡水の両方が混ざり合っている水域)でニッチな自然でした。泥などが溜まりやすく干潟のようになっており、特徴的な環境だからこそシオマネキなど様々な生き物がいました。こういった環境で遊び、育ってきたことが、今の生き物好きな僕に繋がっているとも思っています。

一度は進んだ農業の道
捨てきれない思いから環境コンサルティング業界へ

ー現在は関東で環境コンサルティング会社にお勤めですが、どのような流れでキャリアを歩まれてきたのでしょうか?

もともとは就職先として沖縄を離れるつもりはありませんでした。大学では、環境系の学部に進学したいと考えていましたが、周りから「環境系に行ってもその先仕事ないよ」と言われ、素直な僕は疑わずに聞き入れてしまい、別の道を探すことにしました。
もともと高校の授業でも植物の分野が楽しいなと思っていましたし、農業って面白いなという思いを強くしていたので、農学部に行くことを決めました。
ただ、実際に自分の就活を通じて、環境系であっても、コンサルティング会社だったり選択肢色々あるじゃん!と知りました。(笑)
そして自然と人の暮らしが共存できる方法を探すため、沖縄で環境コンサルティング会社を探したのですが、沖縄では新卒採用がなかなかない業界だったのもあり、最終的には農業関連の企業に就職し、農産物の生産現場に携わった仕事を約6年間続けていました。
とても充実した日々を過ごしましたが、環境コンサルティング会社への憧れも捨てきれず、思い切って東京の環境コンサルティング会社へ転職しました。

ー環境コンサルティング会社では、どのような仕事をされているのでしょうか?

転職先としていくつかの環境系企業に応募したのですが、経験者でないと書類選考さえ通らない状況だったので、受けては落ちてを繰り返していました。そんな中、今の会社は未経験ながらも採用してもらい、まずは経験を積もう、と入社を決めました。
1年目には、奄美・沖縄の世界自然遺産登録申請に必要な外来種の生息地マップの作成に携わりました。現地の外来種調査は外注していたので、発見した外来種のリストを受け取り、地図上に反映して最終的な報告書をつくる、というような仕事をしていました。
仕事の内容は楽しいのですが、今になって冷静に振り返ってみると、前職で農家さんと一緒に課題解決に向けて取り組むことも楽しくやりがいのある仕事だったなと思うようになりました。もうちょっと現場寄りの仕事もしていきたいと思ってもいます。
憧れの業界に入れたのですが、新型コロナの影響で週末も誰とも会えないような日々を過ごしていると、本当に自分が向き合いたい自然との関わり方なのだろうかと思い、今は転職を検討しています。

未来のこどもたちに
沖縄の自然は「昔からこうだった」と伝えたい


ー世界自然遺産にも登録された沖縄の自然。
 山原さんは、どんなことをみなさんに伝えていきたいですか?

沖縄の自然を未来のこどもの原風景として残したい、そのために自然を大切にしていくやり方を一緒に考えていきたい、ですかね。
沖縄の自然を知ってほしい・感じてほしいと思う反面、観光客が増えるとモラルの問題が出てくるというジレンマがあります。
世界自然遺産に登録されると価値が上がり、さらに多くの人が訪れるようになると思います。今ではSNSの力によって「地元の人しか知らなかったもの」がどんどん知られていくようになり、それ自体は良いことなのかもしれませんが、人が増えるとゴミのポイ捨てや違法駐車等の問題が発生してきています。行政と連携し、立ち入り制限や景観を壊さない工夫や対応が必要だと思っています。
将来的には沖縄に帰り、自然に関わることがしたいなと思っています。自然と人間生活のバランスを上手く取っていくことは本当に難しいですが、昔あった地元の自然を知り、東京で経験を積んだ僕だからこそ、上手いバランスのとり方を見つけ出すことができるのではと思い、今は修行中です。いつか自分のこどもが生まれたら、「昔はこういう自然が残ってたんだよ」ではなく、「昔からこういう自然豊かなところだったんだよ」と言えるように環境を残していくことを仕事にしていければと思います。

●取材を終えて
当たり前のようにそこにあった”遊び場”の自然が失われていることを知り、人の生活と自然の両立を目指して、今も自分自身のキャリアを考え続ける山原さん。「自分の関心のある分野×自分の好きな働き方」の最適解を探し続ける姿は、いち将来を悩める若者として、共感するものがありました。
「環境問題」という言葉はどこか無機質で、他人事のように思えてしまう方もいるのではないかと思います。規模の大小はあれ、地球規模の気候変動の影響であっても、生活を豊かにするための開発の影響であっても、誰かにとっての「原風景」が失われてしまう可能性があるという点では、自分事として誰もが同じ目線で考えられる問題なのではないだろうか?とお話を伺いながら思いました。
あなたにとって、次の世代に伝えていきたい大切な風景は何でしょうか?