地域のプレイヤーを陰から支える社会のProguram”ER” 花屋雅貴さん

環境問題に対して「特に興味はない」という花屋さん。
ゲームプログラマからゲームアプリの企画・プロデュース、動画配信サービスのアプリ開発をディレクションするなど多彩なキャリアを歩まれてきました。
2007年には当時キーワードとして流行っていた”エコ”と掛け合わせたゲームを企画・プロデュース。そのなかで岡山県西粟倉村にあるエーゼロ㈱代表取締役の牧大介さんと出逢ったことをきっかけに、北海道厚真町に関わり始め、2018年に北海道と東京の2拠点生活へ。
厚真町をフィールドに起業する様々なプレイヤーを育成・サポートすることがどう社会全体が幸せにつながっていくのか、プログラマならではのロジカルな視点で社会全体を見つめる花屋さんにお話を伺いました。

ゲームアプリや動画配信サービスを手掛けるキャリアから
地域で挑戦するプレイヤーのメンターへ

ー 2018年より北海道で拠点を持ち厚真町に関わる花屋さんですが、現在はどのようなお仕事をされていますでしょうか?

もともとは東京でプログラマやアプリ開発のディレクターをしていたのですが、2018年にエーゼロ厚真の取締役に就任し、北海道との2拠点生活になりました。
エーゼロ㈱は、岡山県・西粟倉村に拠点を持つ「西粟倉・森の学校」の代表を務める牧大介さんが立ち上げた会社で、エーゼロ厚真はエーゼロの100%子会社として設立されました。厚真町も多くの地方自治体と同じく人口減少・産業衰退が危惧されるなか、その対策として、2016年から関係人口の創出や地域商社事業に取り組む「厚真町ローカルベンチャー事業」を実施しています。この中で「ローカルベンチャースクール」という起業支援プログラムを開催しており、メンターとして声を掛けられ厚真町に関わり始めました。
ローカルベンチャースクールとは、厚真町で移住・起業したい人をまち側がサポートし、起業プランのブラッシュアップと選考会を行うプログラムです。
厚真町でローカルベンチャースクールをやりましょう、となったとき、まず最初に「馬と共に林業をしたい」というひとりの方が参加してくれました。その人が素敵な人で、人が人を呼び、林業をやりたい人たちが少しずつ集まってきています。山ほどある木を資源として使いまくろう、というビジネスモデルを立てるわけではなく、大きく育った木を丁寧に適切に使っていこう、森を使って人の生活も豊かにしていこうー そういう人たちが自然と集まってきました。

彼らは仕事も生活もよいバランスで気持ちよく暮らしていけるやり方を厚真町へ見つけに来ています。暮らしいくためにどれくらいのお金があれば心地よいのか、どれくらいの生活水準であれば気持ちよいかは人によって違います。厚真町に来て起業をする彼らの意志ある事業がきちんとビジネスとして回せるようになり、厚真町で食べていける人たちが増えるといいなと思いながら関わっています。
厚真町に限らず田舎で起業する人たちは、できることできないこと、自ずとその地域の環境の影響を受けます。そして地域で働く上では地域の人との関係性も大事になります。結果、環境と経済と人と3つのバランスが必要になると思いますし、そこでの折り合いやバランスを見つけていくことは、環境問題の解決とも繋がっていくだろうと思います。

環境問題への興味有無に関わらず、
環境配慮することはビジネスにおいてもスタンダードに

ー 花屋さんは、環境問題についてはどう思っていますでしょうか?

環境問題に興味があるか?と質問されたら、僕は「ありません」と答える人間です。
環境問題に関しては、日々の実生活からは距離が遠すぎて難しいなと感じたりしています。他方で厚真町での起業家を支える今の僕の仕事は、きっと環境問題の解決に繋がるだろう、少なくとも環境を悪くするようなことにはならないだろうなと思っています。
昔から日本には買い手・売り手・世間の三方良しを目指す精神が根付いていますが、今やビジネスにおいて環境に配慮することは必須要件でありスタンダードであることだと思っています。
日々の生活や仕事のなかで環境問題だから・・と考えることはゼロですが、普通に仕事をしていれば環境に触れることになります。環境を全く意識していないわけではなく、きちんと配慮すべきところ配慮してちゃんと仕事をしていれば、環境問題の解決に繋がる気がしています

大切な人とのご縁を繋いだ”エコ”

ー 環境問題は特別意識されていないということですが、厚真町にいらっしゃる前に環境系のゲームをつくったことがあると伺いました。

はい、もともとはゲームプログラマとしてメダルゲームの開発をし、モバイルゲームのコンテンツディレクターを行っていました。
2000年以降、モバイルゲームが流行っていくなか、2007年にモバイルゲーム開発企業の取締役としてゲーム×SNSの広告モデルビジネス担当を務めました。

モバイルゲーム市場が激化していくなかでどう勝っていくかを考えたとき、京都議定書などの関係で国や民間企業において”エコ”という言葉が流行り、「チームマイナス6%」という宣言も広まってきました。僕は「なんだか周りがエコエコ言っていっているな」と思い、そこでエコロジーな活動をモチーフにしたエコゲーム、「エコゲー」をつくることを思い付きました。
ゲームというバーチャルな世界で花を育てたり、川をキレイにするなど環境に優しいアクションをし、利用者数が増えたら環境配慮型の商品を取り扱っている企業の広告を入れ、現実世界で広告収入等の売上が生まれ、その一部を実際に環境保護活動をしている団体に寄付する企画を考えました。バーチャルで生まれたアクションが、現実世界でおカネとなり、環境保護団体を通じて緑が増え、ゴミが減っていくといった仕組みは「結構面白いのでは?」と思い、社長に掛け合ってみると予算がついたので、企画・プロデュースに着手しました。自分の実生活のなかでペットボトル等を分別していてもイマイチピンとこなかった僕ですが、ビジネスモデルの切り口としておもしろいと思い、エコゲーをやり始めたわけです。
このエコゲーを企画する以上、エコとは何か?を知る必要があると考え、エコ関係の仕事をしている人たちのところへ話を聞きに行くということをしていたのですが、そのなかで出逢ったのがエーゼロ㈱を設立した牧さんでした。
当時の牧さんはアミタホールディングスの社員で、なおかつ㈱アミタ持続可能経済研究所の所長を務めていました。その牧さんが何かのイベントで話をするのを聴講者として聞きました。牧さんの話はいろいろ面白いのですが、例えば「日本には多くの山があるが、林業をするためには道を造る必要がある。道を造るためにはお金がいる。他方で牛を山に放つと道が出来る。牛をうまくマネジメントし、ある一定を超えると道ができ、道ができたことによって山の木が木材という資源の形で出しやすくなっていく。」といった話があります。これは1種のゲームみたいだなと心惹かれたのです。
何か作業を進めて、ある瞬間からボーナスステージに行く、みたいなゲームのロジックのようだなと。実際に、エコゲーはこのロジックで作りました。例えば、川に落ちているゴミを拾うゲームをつくったのですが、最初は川下に流れてくるゴミを拾う。ひたすら拾っているうちに川がきれいになる。そうすると魚が川上に登ってくるようになり、ゴミの代わりに魚が獲れるようになる。地道な作業の積み上げが、ある瞬間を超えると状況が変わってボーナスステージになる。現実世界では時間がかかる「エコからつながる未来」のことをゲームの中で表現しました。
そんなこんなで牧さんとのご縁があり、牧さんがエーゼロ厚真の設立にあたって厚真町で常駐する責任者を探していたため、僕が手を挙げ、エーゼロ厚真の花屋が生まれました。なので、牧さんと出逢っていなかったら今の僕はここにいません。

今は人生のボーナスステージなのかもしれない

ー 今の仕事を続ければ環境問題の解決に繋がるとおっしゃっていましたが、花屋さんが仕事で大切にされたいことは何でしょうか?

牧さんの話の中で「下に行くサイクルを逆回しにしたい」という話があります。負のスパイラルをプラスのスパイラルにするということです。それがとっても良いなあと思っているのですが、時間がかかるよなあとも思います。でも、エコゲーで表現したように地道に積み上げていき、あるところまできたらボーナスステージになって、サイクルが逆回しになるような、そんなシステムがこの現実社会でも出来てきたら面白いなと思います。

また、エーゼロ厚真に来て自分の仕事の仕方もこれまでと変わってきたなと感じています。
僕は厚真町のローカルベンチャー事業の責任者であり、エーゼロ厚真の取締役という立場に加えて、エグゼクティブメンターという肩書もあります。厚真町のプロジェクトを具体的にマネジメントしていくのと合わせて、社内の他のチームのメンターとして、各チームの仲間たちがよりよくプロジェクトを回せるようにサポートもしています。様々なプロジェクトを縦にも横にもマネジメントしていける立場は、ある種のボーナスステージなのかもしれません。
元々はプログラマなので、1個1個をモジュールに分けて、トータルでアウトプットが出るように構造的なロジックを組んでいくのを得意としています。そういう意味で、全体感を見ながら個々の状態を把握し、最適にロジックを組んでいくスキルが活かせているなと感じます。
自分が”何か”になりたかったときもありますが、色んな人に関われるような仕事をまかせてもらえている今は、これまでとは違うステージにいるんだなと感じます。

ー チャレンジする若い人たちに伝えたいことはありますか?

僕は結局のところみんなが幸せになればいいと思っています。
幸せ=心地いいということでもあり、今の若い人たちは、環境を壊すことは心地よくないとインストールされているので、然るべきビジネスを進めていけば環境問題も良くなっていくと思っています。
もう誰かが誰かを傷つけて成り上がる時代でもなければ、環境を壊してまで資源を取り出していく時代でもありません。経済規模はそこまで大きくならないかもしれませんが、稼ぐことと環境に負担がないことと、フェアな関係やフェアなバランスが見つかっていければと思います。
地域のためを目指して頑張っても、ビジネスとして回っていかないということがあっては続けられないので、ちゃんとビジネスとして形にしていくことをサポートできたらと思います。
何はともあれまずは続けるところまで持っていくことが大事です
プラスマイナス0でもいいです。続けていくことで、いつかのタイミングで賛同が得られるようになります。賛同する人がいないとおカネも回らず、事業を続ける側の気持ちも持たないです。
あなたがもし今続けられているものがあるのであれば、少なからず賛同者がいる、仲間がいるということです。事業として大きくなっていくのであれば拡大できるだけの賛同者がいるということだと思います。
社会は動きながらしか変えられません。
何かを変えようという気持ちが少しでもあるなら、時間がかかることを覚悟して、続けていくことが大事です。これは孫請けの言葉なのですが、ゆるくでも少しずつでも、「時間を味方につける仕事(少なくても時間をかけた分は積みあがる仕事)」を継続していくことを目指していければ、いつかボーナスステージにたどり着けると思います。

●取材を終えて
これまでのスキルを最大限活かし、多様な起業家予備軍に伴走している今の状態をボーナスステージと例える花屋さん独自の視点は、社会や環境問題に対して新しい見方を与えてくれるような気がしました。
個人的に環境問題にさほど興味がないという方も多くいらっしゃるかもしれませんが、ビジネスでは最早環境を無視することはできない時代になっています。
様々なビジネス領域で、環境とフェアな関係を築けるよう多くのチャレンジがスタートし、それを継続していくことでいつしか人間にとっても環境にとっても望ましい状態となるボーナスステージが来るかもしれません。
私もこのメディアを通じて始めたチャレンジを継続し、自然環境と人間社会のフェアな関係性やバランスの在り方を、みなさんと見つけて行きたいと思います。